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TOPINTERVIEW 中村壱太郎さん

舞台とは常に変化していくもの。
一日たりとも同じ体験はない。

歌舞伎俳優中村 壱太郎さん

上方歌舞伎の名門・成駒家に生まれ、わずか4歳で初舞台に立ったという中村壱太郎さん。女方役者として舞台へ立ち続ける傍ら、SNSやYoutubeチャンネル『かずたろう歌舞伎クリエーション』、配信公演『ART 歌舞伎』など、形式に縛られずに活動されています。新時代へ邁進する壱太郎さんは、今何を思うのでしょうか。

さまざまな芸術に触れることで、歌舞伎の魅力を再発見できる。

これまでに観客として参加された生の公演の中で、とくに印象に残っているものはありますか?

僕は歌舞伎に限らず、さまざまな舞台を観るのが本当に好きです。とくに印象に残っているのは、高校生の時のこと。本多劇場をはじめ、さまざまな劇場がある下北沢で学生生活をおくる中で、アルバイトへ向かう途中にふと演劇のチラシを手に取ってみました。それまで歌舞伎の世界しか知らなかったこともあり、数千円でお芝居を観ることができるということを知り、衝撃を受けました。その時に実際にお芝居を観に行ったのですが、100人くらいが入る小さな劇場で上演される作品にとても感動して。それを機に演劇が好きになり、何度も観に行くようになりました。

歌舞伎やお芝居以外には、どんな舞台芸術を観に行かれますか?

宝塚もよく観に行きます。歌舞伎とは世界がまったく異なるのですが、こちらは男性だけで演じる世界、あちらは女性だけで演じる世界ということもあり、色々と共感できたり、発見も多いです。あとは、海外のミュージカルも好きですね。ブロードウェイミュージカルの『コーラスライン』が来た時に、オーディションという設定の演目だったのですが、鏡しか置かれていない舞台なのに、その中で繰り広げられる世界観に感動しました。

ご自身が舞台に立たれた際に、生の公演だからこそ起きた嬉しい出来事はありますか?

ずっと歌舞伎の舞台をやってきましたが、じつはお客様に助けられているという感覚になったことが何度もあります。はじめて歌舞伎座で泉鏡花先生の戯曲『滝の白糸』という演目を主演させていただいた時に、初日の舞台とはいえ、とてつもなく不安でした。また、約2時間半の長い作品で、歌舞伎と言っても見得を切るようなこともなく、最後は悲劇で終わるということもあって、拍手がないような世界観だったんです。だから、僕自身本当にお客様がずっと観てくださっているのか、分からないような状況でした。

ですが、幕が閉まったとたんに盛大な拍手をいただきまして。拍手がすべてではないのですが、その時の空気感と言いますか、緞帳が閉まったあとの、あの拍手は今でも忘れられないです。それ以外にも、お客様からの温かい拍手が千穐楽までの励みになり、続けられた公演はたくさんあります。

同じ演目でも、まったく同じ日はないのが生舞台。

壱太郎さんにとって、生の公演の魅力とはなんでしょうか?

自分にとってはお客様が、その場所にいらっしゃるということです。お客様にとっても、たとえば一日1000人キャパシティの劇場だとしたら、限られたお席しかありません。つまり、そこへ来てくださった1000人の方しか体験できないということです。もしかしたら、役者もその日ちょっと体調が悪かったり、逆にすごく元気だったり、食べ過ぎてしまっていたり(笑)、さまざまな状態で生の人間が演技をするわけです。だから、歌舞伎は25日間同じ演目をやることが多いのですが、同じ演目でもまったく同じ日というのは1日たりともないと僕は思っています。

それは自分たちが変えてやろうとか、そういうことではなく、共演者とのセリフや踊りの掛け合いで生まれる空気は25日間それぞれ違うということです。だからこそ、お客様も我々自身も、その1日のその時にしか感じられないものがそこにあるというのが、醍醐味なんだと思います。

1度だけではなく、何度も観に行くことで別の発見を得ることができるということですね。ほかに、なにかおすすめの楽しみ方があれば教えてください。

歌舞伎に限らず、長期公演をしている演劇は、日々どんどん変わっていくものだと思うんです。ですので、まずは初日の近辺に観ていただいて、また千穐楽あたりに観ていただくのがおすすめです。もちろん、歌舞伎通のお客様の方が発見の数は多いかもしれませんが、初心者の方でも必ず違いを感じていただけるはずです。

僕たちも毎回25日間の中で、どこか1日の舞台を記録映像として撮っていまして、その映像をはじめてお役をやらせていただく際に、先輩の舞台を取り寄せて観るのですが、もしかするとその日だけセリフを忘れているかもしれないし、体調が悪いかもしれない。それはもうはっきり言って映像ではわからないわけです。それがおもしろいところだと思います。

あとは、席の種類にも前の方の席は観やすいですし、逆に後ろの方や3階席では、たとえば大道具の動きですとか、俯瞰して舞台全体を観ることができます。席によっては、音楽やセリフの聴こえ方も違うでしょうし、そういった違いを楽しんでいただくのも良いのではないでしょうか。

劇場は感染対策を徹底。ぜひ足を運んでほしい。

これからの公演産業は、どのように変化していくと思いますか?

僕自身、配信作品をたくさんやらせていただいた上で感じたことは、映像というものはすぐに独り立ちして飛んでいける良さがあるということです。我々が海外公演をするのはなかなか大変なことですが、映像でしたらすぐにその時生まれた、その時作ったリアルな作品を届けられる身軽さはあります。

2020年に制作した『ART歌舞伎』も、7月に配信して、すぐ9月にはロシア、その翌年にはスペインで公演することができました。実際にロシアで生の公演をするとなれば、準備に1〜2年はかかってしまうところを、映像作品だからこそのスピード感で配信を実現できたのは大きかったですね。

ただ、その一方でやはり生の公演にはライブならではの良さがあります。だから、間を取るというよりはそれぞれが独立して、舞台での見せ方、映像の見せ方と分かれてそれぞれの素晴らしさがどんどん追求されていくのではないかと思っています。

壱太郎さんは常に新たなことに挑戦をされている印象があります。今後、新たに取り組まれてみたいことはありますか?

『ART歌舞伎』は現在、全国の映画館で順次公開させていただいているのですが、歌舞伎を映画館でかけるということに可能性を感じています。歌舞伎の舞台公演を映画館で楽しむ『シネマ歌舞伎』というものもありますが、本当に生の舞台の良さを体感させることができるようなことが、これからもっとできるようになるんじゃないかと。そういう意味では、音楽にしても、映像にしても、新たな作品が作れるかもしれないという期待はあります。

最後に、生の公演を愛する方々へメッセージをお願いいたします

やはり生で感じる演劇は、必ず終演後にも余韻となり、みなさんの日々の活力になると僕は信じています。まだまだ劇場へ行くのが難しい世の中だとは思いますが、劇場のスタッフさんの努力もあり、今はどこの劇場へ行っても感染対策が万全です。とくにまだ劇場体験をされたことのない方は、ぜひとも劇場へ 足を運んでもらいたいです。

「一日たりとも同じ公演はない」。これはまさに舞台が、生の人間の力でつくられているものであることを象徴しています。そして、日々磨かれていく表現だけではなく、当日の役者の体調なども含めて、一期一会であるということ。400年以上親しまれてきた歌舞伎という芸術らしい、人間らしさや愛嬌のようなものを感じました。

中村 壱太郎さん歌舞伎俳優

1990年生まれ。東京都出身。1991年に京都・南座で初お目見得。その後、1995年には、大阪・中座で、初代中村壱太郎を名のり初舞台に立つ。2014年に、日本舞踊の吾妻流七代目家元吾妻徳陽を襲名。現在は、女方を中心に歌舞伎の舞台に精進しつつ、映画『君の名は。』で巫女の奉納舞を創作するなど、活動の場を広げている。春虹の名で脚本執筆、演出にも挑戦。2020年に、配信公演『ART歌舞伎』を制作・上演。

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